X線自由電子レーザー
日本、アメリカ、ヨーロッパでX線自由電子レーザー (XFEL= X-ray Free electron
Laser)の開発と、これを利用する研究競争が繰り広げられている。
電磁気学では、加速運動する荷電粒子から電磁波が放出されると習う。その一例が円運動である。
これがシンクロトロン放射光源の基本である。光をもっと強くしようとすると、ほぼ直線上を蛇行運動させれば良い。
各蛇行運動は円運動に対応し、しかしほぼ直線であるので、放出される光はほぼ同じ方向に進む。
加えて、荷電粒子が光速で走ると、それぞれの蛇行運動で放出された光が重なり、干渉性を示すようになる。 これが前項でも顔を出したアンジュレータである。
さらにアンジュレータを非常に長くすると、重なり合った電磁波が振動電場を作り、その電場を荷電粒子自身が感じるようになる。 このとき荷電粒子が一つの集団となって動くため、放出される光の干渉性は著しく高まって波の位相が揃い(coherent)、レーザーと呼ぶに値するようになる(下図参照)。
これが自由電子レーザーである。通常の可視光のレーザーは、二枚の鏡の間(共振器)を光が行き来して増幅されるが、上述のXFELでは自らの電場に左右されるので、SASE(=Self-Amplified
Spontaneous Emission)と呼ばれている。
詳細は SACLA(XFEL)公式サイト「SACLAとは」 を参照。
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↑XFELの原理図 |
単結晶のX線回折では、ラウエ斑点と呼ばれる干渉スポットが現れる。
これは、たとえX線の位相が揃っていなくても、物質(=結晶)中の電子密度波が揃っているからである。
XFELで不規則系を調べる場合には、これとは逆に、たとえ物質中の電子密度波が揃っていなくても、X線側の位相が揃っているので干渉スポットが現れる。
これまで不規則系の構造解析は、X線も物質も位相が揃っていなかったので、ハローパターンと呼ばれる滲んだ輪が見えるだけであり、1次元情報(=動径分布関数)しか得られなかったが、XFELの出現により、不規則系でも少なくとも2次元情報が得られ、それらを組み合わすことにより、3次元像の構築も夢ではなくなる。
こうなれば、液体構造論の教科書は、全部書き直さなければならない。
重要な応用が、タンパク質等の生体分子の構造解析である。従来は結晶化できる分子だけが研究対象であったが、XFELによりその制限が取り除かれる。
しかし克服すべき課題もある。XFEL光が強いため、1ショットで一つの回折像を得られるという長所があるが、同時に、その1ショットで試料が著しい放射線損傷を被ってしまう短所もある。
X線吸収による光電子放出に伴い、内殻ホールが形成される。 オージェ電子や蛍光X線を放出しつつ、そのホールはエネルギー的に低い方へと緩和していく。
ホールは増殖され隣接原子へと移動し、ついにはクーロン爆発を引き起こす。 XFEL利用研究が大きく発展するためには、このような素過程の研究
が不可欠であり、これも不規則系物理学の責務でもある。
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