核整列固体3HeのNMRと超音波物性による核磁性と核スピン動力学




 融解圧上の固体3Heは0.93 mK以下で核整固体になる。核スピン間の主な相互作用は原子の位置交換からくる交換相互作用である。この交換相互作用は電子系の場合と異なり原子のハードコアーを避けるために3体、4体あるいはそれ以上の多体が関係した多体交換相互作用が重要である。交換相互作用は原子間距離の強い関数である。従って格子変形を伴う超音波は核磁性を研究する上で重要な研究手段である。磁場中の核整列3HeにはU2D2相と云われる低磁場相とCNAF相と云われる高磁場相が存在する。U2D2固体3Heは1軸性異方性を持つ特異な磁気構造をしている。
固体3Heの超音波物性研究には大きな単結晶でかつ単磁区からなる良質の固体3He結晶の作成と、それをサブmKの超低温に冷却することが必要である。そのような試料の作成と超音波測定は以下のような方法で成功した。底の方に出来た種結晶を細長い試料室の中で成長させると、試料室の上部に単磁区構造をもつ単結晶固体3Heが出来る。良質試料では内部熱伝導が良く、それを超流動3Heに熱接触させると固体と液体の界面熱抵抗が小さいので固体の温度を超低温まで冷却することができる。この試料を用いてU2D2固体3Heで初めての超音波の減衰と音速の測定を行った。超音波は縦波と横波を同時に計測し、超音波の周波数は数MHz〜60MHzである。観測された核整列固体の音速の温度変化は、Δv/v=A(T/TN)4であった。Aを結晶の方位と音波のモードの関数として観測した。音速の温度変化は核スピンの音速への寄与であることがわかる。等方的な物質の音速変化はΔv/v=γ(γ−1)ΔU/2ρV2で表わされるので(γはグルナイゼン定数、ΔUは核スピンの内部エネルギー、ρは固体の密度)、Aは固体3Heの交換相互作用のγと関係している。Aに関するデータから多体交換相互作用の種々の変形に対する多体交換相互作用の変化を見積もることが出来るので、多体交換相互作用モデルの検証に重要な手掛かりを与えるものと思われる。引き続き行った高磁場相での測定結果とも併せて詳細な解析を行った結果、3パラメータの多体交換モデルの範囲内では得られた結果を十分に説明することができず、さらなる理論的発展が必要ではないかと考えている。




核断熱消磁冷凍機に取り付けられた超音波測定装置。上部は固体を作るための加圧装置、中央がNMR用のマグネット、その中心部にあるのが固体ヘリウム3を作る入れ物。この中に超音波測定用の発振子が備えられている。下部は断熱消磁冷凍機。
 

サンプルセルのスケッチと、核整列固体ヘリウム3の超音波シグナル。


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