偏極原子状水素気体、特に2次元水素(ボース気体)の超流動 (Kosterlitz-Thouless転移)の探索


 偏極原子状水素は1K以下の低温で、強磁場の下で電子スピンの方向を揃え再結合しないようにし、安定化させたものである。偏極水素間相互作用は極めて弱く、強い量子効果によって絶対零度でも気体の状態で存在する唯一の永久気体である。近年、MITで偏極水素の気体のボース凝縮がはじめて観測され注目を浴びている。 本研究では、超流動ヘリウム膜上に吸着された2次元偏極水素系の超流動転移(コステリッツ−サウレス転移、以下K−T転移と略す)を探索している。K−T転移を実現させるために、偏極水素を高密度のまま十分冷却することが必要であるが、通常の方法では、偏極水素の再結合による莫大な発熱(50000K)により、不可能である。本研究では、試料室内に小さな良く冷えた表面(冷却スポット)を設け、その上に偏極水素を吸着させて、高密度のまま冷却を行っている。この方法であれば、再結合熱は励起した水素分子により、試料室の熱い壁に運び去られるので、2次元系が発熱してしまうことはない。したがって、超流動ヘリウム上に吸着された偏極水素の面密度の制御に成功し、現在1012/cm2程度の2次元偏極水素をを約30mK程度まで冷却することに成功した。また、吸着膜として通常は純粋な4Heが用いられるが、本研究では、3He-4He混合液を用いた場合について、その上に吸着された偏極水素の再結合機構及び3He-4He混合液膜上での2次元 偏極水素の再結合機構および冷却機構についても研究を行った。この結果、希薄な3Heを含む3He-4He混合液に対する偏極水素の吸着エネルギーは、純粋な3Heでの吸着エネルギーに比べて大きな値を示すことがわかった。これは、3He-4He混合液面の性質がどのようになっているかを示す、非常に興味深い結果であるといえる。最後に、実験装置については、本研究では128GHzの高分解能ミリ波ESR装置による分光を超低温において行っているが、2次元 偏極水素の超流動転移の直接観測に向けて、冷却スポットを焦点とするFabri-Perot型ミラー共振器を開発した。
(水崎 隆雄)


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