Heの結晶成長および平衡状態の結晶の形状に関する研究は殆どの場合は4Heについて行われ、多くの重要な研究が報告されている。4He(3Heの場合も同じ)は絶対零度でも固体と液体が共存するので、固化の潜熱が非常に小さく、かつ液体は超流動状態であるので熱伝達および物質移動が極めて容易であるので、条件が整えば結晶成長係数が他のいかなる物質よりも桁違いに大きくなり、結晶成長の研究と結晶の平衡形の精密な研究が行われている。固体Heでは、結晶成長面がラフな場合や微斜面の場合では、結晶成長の散逸機構は液体や固体中の素励起の結晶界面の散乱によるので、温度の低下し素励起がなくなると、結晶成長係数は急激に増加する。
固体3Heでは核整列転移温度(TN=0.93mK)以上では、固化に大きな潜熱が伴い、また液体3Heはフェルミ液体であるので熱伝導度が小さく、結晶成長は4Heの場合に比較して極めて遅い。3Heの場合は潜熱がなくなる0.3K近傍での結晶成長の研究が報告されている。固体3HeはTNで1次相転移して核整列固体になり、TN以下では核スピンの持つエントロピーが殆どなくなる。又、その温度域においては液体は超流動(B相)になっている。従ってTN
以下の温度域では4Heの場合と似た状況になり、
3Heに於いても極めて大きな結晶成長係数を持つことが期待される。3Heの結晶成長の大きな特徴は核スピンの状態が結晶成長を制御する可能性があることである。液体と固体の磁化の差が非常に大きいため磁場中では結晶成長に伴い大きなスピン流が流れることが結晶成長の特徴である。十分低温では結晶成長の散逸が極めて小さくなり、結晶表面に磁気的結晶化が立つことがAndreevによって予言された。
超低温(1 mK以下)で、1mmΦの円筒容器内で、超流動3He-Bからの核整列固体3He(低磁場相、U2D2)の結晶成長と融解を観測した。測定温度は核整列温度(TN=0.93
mK)から0.5 mKである。試料の大きさは固体の回復長(healing
length)と同じ程度であり、この温度では固体の界面は平衡状態ではファセットである。a)固体の融解速度は成長速度と比べて全温度領域において非常に早い、b)融解速度は温度に強く依存し、低温になる程融解速度は早くなる,
c)成長速度は温度にあまり依存しない。結晶成長の臨界的なΔμcが存在し、10erg/cm3以下では殆ど成長しない。d)極く稀に、過冷却状態にしても全く結晶成長しない固体があるが、この固体においても融解は極めて速やかに起こる、e)T>TNでは成長速度と融解速度はほぼ等しく、共にT<TNの場合に比べて非常に遅い。これらのことから以下の結論を得た。結晶成長の機構はファセット面が螺旋転位を伴って成長し、ステップの移動速度を決めているのは超流動3Heの対破壊臨界速度(約10cm/sec)である。一方、結晶の融解はラフな面の融解機構によって決るが、その詳細な機構は理解されていない。融解速度の温度依存性(∝T4?)の決定が今後の課題である。
我々のTN近傍のデータを低温域に外挿し、Andreevの磁気的結晶化波の減衰の式を用いて、結晶化波検出の温度領域は100μK以下の超低温が必要であると推定した。今後の課題として探索を続ける。