第4音波法を用いてエアロジェル中に入れた超流動3Heに関する研究を行った。測定は密度が1%(空効率99%),1.5%(空効率98.5%),2%(空効率98%)の3種類のエアロジェルについて行った。このうち1%と2%の密度のものはエアロジェル自体の振動を抑えるために,平均粒径100μmの銀粉末を用いた焼結銀の中にエアロジェルを成長させたものを用いた。またエアロジェルの製作はDelaware大学のN.
Mulders氏に依頼した。用いた測定方法は第4音波法であり,共鳴空間中に発生させた第4音波の共鳴周波数から,第4音波の音速を求めるものである。第4音波の音速は超流動密度の平方根に比例することから,第4音波の測定から超流動密度の温度依存性や転移温度を求めるものである。
本年度は前年度の結果を踏まえ,超流動3Heを用いた測定を行った。測定は3種類の密度のエアロジェルと比較のための空のセルの合計4つのセルを同時に測定し,超流動転移温度や超流動密度のエアロジェル密度に対する依存性を測定した。
測定は2.7barから18barまでの5つの圧力で行った。測定の結果,超流動転移温度は各密度のものともバルクの転移温度より低く抑えられており,より高密度のエアロジェルほどより低く抑えられること,さらに低圧ほど強く抑えられることがわかった。この転移温度の抑制は,定性的にはより多くの不純物があることでより多くの超流動3Heのクーパーペアが破壊されると考えると説明できる。理論的にはAbrikosov-Gor'kovによる超伝導体の磁性不純物の効果と同様に考えることができる。我々の実験結果はエアロジェル中の超流動3Heの転移温度の抑制がほぼAG理論と一致することを示した。この結果はAG理論では説明できないとする外国の他のグループの結果とは一致していない。また超流動密度に関しても本研究では、より高密度のエアロジェル中でより抑制されるという結果を得た。特に密度1%のエアロジェル中では高圧になると抑制の効果が急激に弱るなるという結果を得た。この結果に関しても本研究ではAG理論を支持しているが,外国の研究グループの結果とは一致しない。しかし密度の異なるエアロジェルを用いた比較実験は本研究のみであり,これからさらなる研究が必要と考えられる。
(松原 明)